■大学の中で毎日見るサイネージと、フードコートで年に数回しか触れない広告は何が違うのか

 

広告クリエイティブを企画するうえで、媒体そのものの物理的な特徴や設置位置の視認性を考慮することは当然ですが、もう一つ、無視できない重要な要素があります。それが「接触頻度の違いによる飽き(Wear-out)と既知感(Familiarity)」です。

屋外広告やデジタルサイネージのように、同じ場所で同じ人に繰り返し見られる媒体は、コンテンツ設計の考え方が大きく変わります。 

本章では、大学内で学生が毎日のように利用する食堂や通学導線と、フードコートのように年に数回しか訪れない場所では、どのように広告設計を変えるべきかについて、OOHOut-of-Home)の考え方に基づき整理していきます。

 

 1. 接触頻度による「広告との距離感」の違い

接触頻度の差は、広告を見る側の態度を大きく左右します。広告心理においては、

・高頻度接触低関与でも強制的に視界に入るが、飽きが早い

・低頻度接触 → 1回の印象が強く、既知感がほぼ無い

という特徴があることが広く知られています。

 

1-1. 大学内の食堂や生活導線:毎日の「ながら接触」

大学の食堂、ラウンジ、通学のメインストリート、館内移動の主要動線などは、学生にとって「習慣的に通る場所」です。

このような場所にある広告は、

・視線を向けていなくても自然と入ってくる

・同じ内容が続くとすぐに見なくなる

・面白さよりも「邪魔にならない」ことが重要

という特徴を持ちます。

つまり、自然な“ながら接触”で情報を受け取ってもらう設計が求められるのです。

 

1-2. 年に数回しか行かないフードコート:一回一回が「新しい体験」

一方、ショッピングモール内のフードコートや、年に数回しか訪れない施設での接触は、学生にとって“非日常的”あるいは“新鮮”な状況になります。

この場合、

・飽きよりも「理解されるかどうか」が重要

・最初の1回で分かる構成が求められる

・新鮮さ・イベント性を打ち出すと効果的

といった特性が生まれます。

つまり、1回で伝え切る初回接触の強さが重視されます。

 

2.「飽き」と「既知感」をどう捉えるか

広告が繰り返し見られると、一定の段階を経て効果が変わります。


2-1. 既知感の段階

一般的な広告効果の理論では、繰り返し接触を通じて、

・新規性(初見)

・認知(知っている状態)

・既知感(ああ、これね状態)

・飽き(またこれか状態)

・無視(情報として受け取られなくなる)

という段階を踏みます。

大学の食堂のような場所では、このスピードがとても速い。

下手をすると、1週間で飽きに到達することもあります。

 

一方、フードコートのような場では、

・1→3までが一度の接触で終わる

・飽きが発生しにくい

新鮮さの優位性がずっと続くという特徴が出ます。

 

2-2. “飽き”が悪者ではない

飽きは避けるべきネガティブなもののように感じますが、OOHの文脈では必ずしも悪とは限らず、

「知ってる」状態まで育っている=ブランドが脳内に刻まれていると解釈することもできます。

重要なのは、そこで止まらず効果を最大化する“更新タイミング”の設計です。

 

3.接触頻度に応じたクリエイティブ設計

ここからは、大学内やモールなど“頻度の異なる環境”に合わせたクリエイティブ方針を整理します。

 

3-1. 【高頻度接触】大学内:飽きやすい環境での設計

高頻度接触の場所では、次のようなポイントが重要です。

(A)“短期サイクル”で内容を変える前提で設計

大学内サイネージは、12週間で内容を変えるくらいが理想的です。

長期間同じクリエイティブを流すと、「意図しない不快感」につながりかねません。

 

(B)ストーリーより“静止画的”な構成

動きが多い動画は飽きが早く、内容への集中を妨げることもあります。

あなたが好む“静止画的で安全運転を意識した設計”は、この環境に非常に合っています。

 

(C)見流しても情報が伝わる構成

・大きな文字

・主メッセージ1

・情報を出しすぎない

が王道です。大学の食堂のような環境では特に「ながら」で認知されます。

 

D)季節イベントとの連動

大学生活には

・新入生

・定期試験

・就活

・学祭

といった年間リズムがあります。

このタイミングで広告内容を変えると“更新された感”が出やすく、飽きの軽減につながります。

 

3-2. 【低頻度接触】フードコート:初見の理解力を最優先

フードコートでは接触頻度が低く、滞在時間も長くありません。

そのため、クリエイティブのポイントは大学内とほぼ逆になります。

 

(A)1回で伝わる構成

・「何の広告か」

・「誰にどう役立つか」

・「行動を促す情報」

を瞬時に理解できるようにします。

 

(B)動きや変化を用いた“目を引く仕掛け”

初見の人に対しては、映像的な演出が効果を発揮します。

ただし、情報を詰め込みすぎないことがポイントです。

 

(C)写真やビジュアル要素を強く

フードコートは“視覚のノイズ”が多いので、

・大判写真

・主役を一つに絞る構図

・コントラストが強いデザイン

などが効果を発揮します。

 

4.どの環境にも共通する「慣れ」のコントロール

飽きと既知感は避けられない現象ですが、制御することはできます。

 

 4-1. 軽微な変化で“更新感”を演出 

大学内など高頻度接触の場所では、同じ構成で色だけ変えるといった

「弱い変更」でも十分更新感があります。

 

4-2. 広告主の“シリーズ化”による認知強化

・統一のフォーマット

・トーン&マナーの統一

・連番のコピー表現

などは、飽きにくくブランド想起も高まります。

 

4-3. 音を使わない前提での「変化」

サイネージでは音が使えないケースが多い。

そのため、“視覚的変化のリズム”だけで飽き対策を行う必要があります。

 

5.まとめ:場所の“利用頻度”に応じて広告は変わる

大学内の食堂や生活導線と、年に数回しか行かないフードコートでは、広告の役割やクリエイティブの考え方が大きく異なります。 

・高頻度接触
  → シンプル・静止画的・短期更新

・低頻度接触
  → 初見で理解・動きやビジュアルで引きつける

広告は「どこに」「どれくらいの頻度で」接触するかで、設計思想がまったく変わります。

その違いを踏まえることで、媒体の特徴を最大限に活かし、広告主にも見る側にも価値のあるクリエイティブを作ることが可能になります。

 

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