■はじめに
新卒採用市場は、いま大きな転換点を迎えています。求人倍率の高止まり、学生の行動変化、オンライン中心の情報収集…。こうした背景が重なり、多くの企業で 「母集団が集まらない」「エントリーが伸びない」「知名度が低く比較対象にすら入らない」 という課題が深刻化しています。
その中で近年、人事担当者から注目を集めているのが 大学内広告、とりわけサイネージ広告 です。
大学キャンパスという“学生にとって最も生活の中心となる空間”で認知を形成できるため、採用活動の補完施策として高い評価を得ています。
ただし一方で、大学広告には「できること」「できないこと」が存在し、過度な期待を抱くと実務とギャップが生まれる場合もあります。本記事では、人事担当者が正しく活用するために、背景・効果・事例・ポイント・費用感を丁寧に解説します。
■新卒採用が「確保困難」時代に突入した背景
1.人事市場で起きている構造変化(売り手市場の加速)
新卒採用は長期的に売り手市場が続いています。多くの企業で採用人数は増加傾向にある一方、18歳人口の減少・学生の大手志向・就活ルールの流動化など、構造的に採用が難しくなる要素が積み上がっています。
特に顕著なのが 知名度格差の拡大 です。
学生は情報が多い時代だからこそ、まず「知っている企業」しか詳細を調べない傾向が強まっています。そのため、地方企業・BtoB企業・知名度の低い企業は、そもそも“検討テーブルに乗る前に脱落”しやすいのです。
2.学生の情報接触環境の変化(SNS × 校内メディア)
学生の情報源はSNS中心ですが、SNSはアルゴリズムにより「関心のある分野」に偏りがちなため、企業からの認知を広く取るのは難しい面があります。
そこで再評価されているのが 大学内の物理メディア です。
食堂・ラウンジ・教室前など、学生の動線上に設置されるサイネージ広告は、「SNSとは異なる文脈」での情報接触を生み、ブランド想起を高めやすい特徴があります。
3.母集団形成の難しさと企業間の取り合い
採用競争が激化する中、学生の取り合いは年々早期化しています。
インターンシップも「夏→秋→冬→通年」へと長期化し、母集団形成は年間を通じた戦略が求められるようになりました。
しかし実際には、
母集団が集まらない
エントリー数が伸びない
学生が“企業を覚えていない”
という課題が増えています。
大学内広告は、この “認知の壁” を突破するための補完策として有効です。
■大学内広告が人事に“効く”理由
1.生活動線上にある「必ず目に入る広告」
大学内広告の最大の強みは 「生活の中に溶け込む」 こと。
特にデジタルサイネージは、学生が毎日通る食堂やラウンジなどに設置されているため、意識していなくても目に入ります。
広告として“強制視認”に近い環境は、他媒体ではほとんど実現できません。
2.SNSと異なり「意図しない接触」が生まれる強み
SNS広告は、学生が“自分の意思で使っているアプリ”の中で表示されるため、企業広告はスキップされがちです。一方、大学内広告は「無意識接触」が主なので、情報回避が起きにくい点で優れています。
特に「知らない企業」にとっては、この“あえて見に行かなくても目に入る”環境が強力な武器となります。
3.大学広告は“企業研究の初期段階”に強い
学生が企業研究を始める前、つまり 「興味形成の前段階」 に認知を作る効果が大きいのが大学広告です。
これは採用戦略上非常に重要です。
なぜなら学生は、“知っている企業しか比較テーブルに乗せない”
という行動特性が顕著だからです。
大学内で企業名を見た経験があれば、説明会やインターン情報がSNSで流れてきた際に「聞いたことある企業」として扱われ、クリック率が大きく変わることがあります。
■サイネージ広告が他メディアより採用向きな理由
1.情報差別化が難しい採用情報に“記憶のフック”を作る
採用情報は、どの企業も似た表現になりがちです。
「働きやすい環境」「成長できる環境」「風通しが良い社風」など、学生が見飽きている情報が多いため、差別化が難しいのが実情です。
サイネージ広告は動画で表現できるため、
・動き
・音(大学による)
・色彩
・スピード感
など、視覚情報の幅が広く、“記憶のフック”をつくる上で強力な表現が可能です。
■大学内サイネージ広告の効果事例
1.認知度の低い企業が説明会予約率を伸ばしたケース
地方の中堅BtoB企業が、首都圏大学のサイネージ広告に出稿。
結果、
・“企業名を知っている”と回答した学生が増加
・説明会予約率が上昇
・採用サイトの指名検索が増加
という成果が見られました。
広告接触から直接応募へつながるのではなく、「知っていたからクリックした」
という間接効果が大きいのが特徴です。
2.地方企業の首都圏大学での露出がインターン応募につながったケース
地方企業の場合、首都圏学生には情報が届きにくいのが一般的です。
しかし、大学サイネージ広告で“存在を知ってもらう”だけで応募数が改善した事例があります。
3.エントリー開始前に接触して企業理解を底上げしたケース
4月の大学内広告で認知をつくった企業が、6月の説明会募集でクリック率・応募率を向上。就活前の「記憶づくり」が後のアクションに大きく影響した例です。
■人事が実践したいサイネージ広告の企画ポイント
1.採用サイト・SNSとの導線設計
大学内広告は“単発では効果が見えにくい”媒体です。
そのため、
・QRコードで採用サイトへ誘導
・SNS(X/Instagram)で深掘り情報を提供
・説明会やインターンの予約導線を簡潔に
など、広告 → SNS → 応募 の流れをつくることがポイントです。
■大学内広告 × SNSの相乗効果を最大化する方法
1.“指名検索”を生むクリエイティブづくり
大学広告を活用すると、最も効果が出やすいのが「指名検索」です。
学生が企業名を検索することで、結果的にSNSや採用サイトの自然流入が増えます。
そのため、企業名・ロゴ・キャッチコピーの“覚えやすさ”が非常に重要になります。
■実施までの流れと費用感の目安
1.配信可能な大学・メディアの種類
媒体によって、
・食堂
・ラウンジ
・図書館前
・エレベーターホール
など、設置場所が異なります。
学生の動線に合わせて選ぶことが重要です。
2.広告審査とクリエイティブ条件
大学広告は公共性が高く、審査も厳しい傾向があります。
特に採用広告では、
・誤解を招く表現
・断定的表現
・過度に煽る表現
などはNGとなる場合があります。
3.掲載期間の最適化(2週間・4週間・学期単位)
おすすめは 4週間?学期単位。
大学広告は“接触回数”が効果に直結するため、最低でも1カ月が望ましいです。
4.制作費・配信費の一般的な相場例
大学・媒体・期間により異なりますが、
1大学あたり数万円?数十万円 が一般的です。
複数大学セットプランも存在します。
■まとめ
大学内サイネージ広告は、新卒採用における「認知形成」を強化する強力な施策です。ただし、過度な期待ではなく、SNSや採用サイトと組み合わせた“地道な母集団形成策”として捉えることが重要です。
■本記事のポイント
・大学広告は“興味形成前”の学生に強い
・SNSとは異なる“無意識接触”が可能
・認知度の低い企業ほど効果が出やすい
・単体施策ではなく、導線設計が成果を左右する

